洗足池駅から商店街に足を踏み入れ、すぐ目に入り、なんだか、ほっとする風景が広がります。楽しそうなご夫妻の接客の声が聞こえます。店頭には、看板犬ワカ子ちゃんが迎えてくれます。
亀山喜久男さんと妻の光子さんが切り盛りするのが「鮮魚店 魚忠」です。
昭和12年父親の忠蔵さんが中原街道沿いの共立信用金庫の場所で鮮魚店を開業しました。
その当時、駅すぐの小林ビルから魚忠までは、ロッキード事件で有名な児玉誉士夫氏の邸宅だったそうです。商店街の歴史を振り返ると、この辺りも大きな邸宅が多かったことがわかります。
その後、魚忠は、現在の場所に移転されました。
二代目の喜久男さんは双子で、お兄さんと3人兄妹。
その中でも、喜久男さんだけが小さい頃から、父親の手伝いをごく普通にやっていたそうです。
「魚屋の仕事は嫌じゃなかった。でも葛藤の連続でしたね」
「学校出たら、魚屋を継ぐことは、当然と思っていた」喜久男さんは、迷うことなく、18歳で家業を継ぎ、親子で店に立っていました。
父・忠蔵さんは茨城から上京し、本郷の魚屋で修行の道に。
「あの辺りは、お屋敷も多く、魚の質にもこだわっていたらしい」
「親父は、洗足池に店を構えた時も、いい魚だけを扱っていました」
魚忠は、鮮魚だけではなく、焼き魚や惣菜も人気商店です。
「親父の代から、焼き魚は定番でね。人気商品だった。うちの母親も、料理好きでね、お惣菜もその頃から並べてたんだよ」
当時は、洗足池の周りにも工場や会社が並び、2階には、宴会場がフル活動していました。
「今のように、居酒屋とか少なかったからね。会社の忘年会や打ち上げをうちでやってほしいって言われ、2階を宴会場にして魚も酒も提供してたんだよ」
現在は、宴会場は、商店街の集まりに使われていますが、路地から裏の階段を上がるとここで仕事帰りに魚と酒を酌み交わしている昭和の風景がみえる気がします。
その影響で、現在でも、光子さんが手際よく惣菜を作り、夕方には店頭を賑やかに煮魚や野菜の煮付けなどが並びます。
お勤め帰りのワーキングウーマンにはうれしい家庭の味です。魚忠の朝は早く、毎日4時半トラックに乗り豊洲へ向かいます。
「魚河岸が豊洲に移転し、築地よりうんと、衛生的でキレイにはなった」
「でも、なんか寂しい、違うんだよな〜」「ほとんど輸入の魚でね、近海モノはホントに減った」
喜久男さんは、温暖化に伴う日本の魚の変化を感じています。
海水の温度の変化の影響で、以前は銚子沖までしか取れなかった鯖が青森沖や北海道で取れるようになったそうです。
春の魚、さわらも今では秋から冬にかけて店頭に並ぶように、魚の旬も変化を遂げています。
温暖化以上に喜久男さんが不安に思うことがあります。
それは魚河岸に質の良い魚が減ってきたことです。和食がユネスコ世界文化遺産に登録され、世界各地で和食や魚が食べられるようになりました。そのことから、魚を中国、アメリカが爆買いしているという実態です。
「いい魚が減ってきた、河岸に上がっても、バカ高くって、魚屋が買える値段じゃない」
海外で和食店や寿司屋が増え、魚河岸を通さず、漁師や船ごと魚を買い占めるという動きも広がっているそうです。
私は、食材を小売店で買うことが好きです。食べ方、処理の仕方などプロに聞くことができるからです。
スーパーでパックされた魚の方が、下処理も料理も楽なのかもしれませんが、店主との会話の中には、ネットやレシピ本にはない知恵や裏技を聞くことができます。
取材中も、キラリ!喜久男さんの魚レッスン始まりました・・・・・
「鍋用の鱈は生鱈を買う人多いけど、ダメなんだよ」
「鱈は生だと煮ると身が崩れてしまう。だから塩をしてから使う。または甘塩の鱈を使う方がいい」
さすがだなぁと聞き惚れてしまいました。
この取材をきっかけに、商店街の隠れたマエストロの皆さんに料理やお花のアレンジメントなど洗足池商店街マエストロ講座を企画してみたいと思うようになりました。
洗足池商店街、どこにでもある商店街かもしれませんが、新旧の食や暮らしの達人達がいっぱい埋もれています。
コロナ禍でイベントも中止が増え、商店街にも寂しい風が吹くようになりました。
2023年、新しい取り組みを企画していきたいと思います。
是非、みなさん、ご期待ください。
洗足池商店街マエストロ講座Vol.1魚屋さんに学ぶ魚のおろし方講座
洗足池商店街のマエストロたちの講座が始まります。
第1回目は、商店街のムードメーカー魚忠さんです。
魚にもっと親しんでほしい、魚をさばけない人が多い中
基本の魚の三昧おろしを学びましょう。
アジを美味しく料理するレシピも学びましょう。
日時 3月 21日(祝)
10:00〜12:00
場所 タカコナカムラホールフードスクール
講師 魚忠 店主 亀山喜久男
料理アシスタント タカコナカムラ
参加費 ¥5000(税込)
内容 アジの三昧おろし
ランチ アジフライランチ付き
持ち物 エプロン、バンダナ、ハンドタオル
申し込み・問い合わせ https://wholefoodschool.com/
電話(03)3729−1077