70年の「風」を感じる
フラワーショップ el Cielo
洗足池駅のガードをくぐり、2つ目の角を左に曲がったところにあるフラワーショップは 今年で70周年を迎えます。
3代目の田丸茂さん(48歳)は、フラワーアーティストとして毎日お客様と接しています。今月は、そんな茂さんのワールドワイドなお花の物語を紹介します。
昭和30年代、茂さんの祖父盛雄さんが「田丸生花店」として創業。2代目の茂さん父・ 均さんは「フラワータマル」として店を継がれました。
茂さんは、祖父や父の生花店の仕事を小さい頃から見て、仕事を継ぐことに魅力を感じることはありませんでした。
「花屋でお客様を待つだけの仕事に興味はなかった」音楽好きの茂さん20代でDJを目指し、都心のクラブでレコードを回し、独自のスタイルで音楽を発信していました。なにやら、人気のDJだったそうです。 そんな時、家族が倒れたことをきっかけに、家業の生花店に初めて心が向く様になりました。 お母さんの勧めもあり当時神田で開校していたブールマインスティテュートというフラワーアレンジメントスクールの日本校に通うことに。D J と学校の二足のわらじ、さらに飲食店のバイトをやりながら、少しづつ「花」の世界へ近づいて行きました。 生花店としての知識を習得されたもの、さらなるキャリアと夢を求めて、 ブールマインスティテュートの本校でアーティストコースを受講する為オランダへ留学。
そこには、世界中から花に魅了された人が集い、家や車に装花するなど、みんなで大 きなオブジェを制作したり、文化の違う国の人との交流の経験から、茂さんは初めて「花が好き」「花を生涯の仕事にしたい」と思う様になりました。
帰国後は、フリーのフラワーアーティストとして、銀座の会社に勤め、クラブや料亭、結婚式場などでデザインを提供して来ました。2009年、正式に家業を継ぎ「el cielo」という店名に変え、スタート。「el Cielo」とは、スペイン語で「空」という意味です。茂さんは家業を継ぐまでの過程で オランダへ行き、イギリスなど他のヨーロッパ各国でも研鑽を積みましたが、中でもスペ インの文化に魅了され、スペイン語の店名を命名。
お店は順調に進んでおりましたが、コロナ禍で当時頂いていた結婚式やイベント会場への花の贈呈が減り、営業的には厳しい状況が続きました。 そんな中、介護施設やリハビリ施設から花の注文が増える様になりました。
「お年寄りの方も、黄色い花は元気が出るって喜ばれますよ」と毎回、茂さんもアレンジに力が入ります。 店頭でのお花の売れ方にも変化がありました。切り花だけではなく、鉢物も売れるようになりました。
取材中、ひっきりなしに来客が続きます。
「お花があると、なんだか元気になるから」
「娘が明日、誕生日なんです。ブルーが好きなので、ブルーの花で小さいブーケできますか?」
「お友達の誕生祝い、ピンクで花束作ってください」
「あっ、キレイ!真っ赤なジンジャーの花、1本、部屋に飾りたい」
自粛生活が続く中、一輪のお花が塞ぎがちな私たちに元気や安らぎを与えてくれたのです。
これまでの贈答品としての特別なお花が、暮らしの中の癒しのモノとして定着しつつあります。
この街で生まれ育った茂さんは、街の変化にも気づいています。
「子供の頃は、学校の帰りに商店のおじさんたちからよく声をかけられた」
「おかえり、元気かって~って
「今は、むやみに声をかけるのもいけないし、でもそうやって、みんなで街の安全を守っていたんですよ」
洗足池商店街も、少しづつ店は減り、対話のない店が増えてきました。
「寂しいですね。もっと、人が集い、店同士もつながり合いたいです」
対面式でモノを買うことはコミニケーションが生まれます。食べ方、使い方も店の人が一番よく知っています。
新しい「風」がel cieloから再び吹いてくれることを願っています。
エルシエロ
東京都大田区上池台2−26−11
電話(03)3720−5473Mail : shop@f-elcielo.com
www.f-elcielo.com
定休日:火曜日
営業時間:10:00-19:00
:10:00-17:00(日曜・祝日)