胸がキュンとなるお菓子を作りたい パティスリーAKANE

洗足池商店街で、いつもお客様が絶えることがなく、ハロウィン、クリスマス、バレンタインデーと店に引き込まれてしまう素敵なショップがパティスリーAKANEです。
2月14日バレンタインデーも終わり、空っぽになったショーケースを埋めるために大忙しのオーナーパティシエ、田中茜さんにお話を伺いました。

茜さんは、東京都西多摩郡瑞穂町出身。ご両親は養鶏業を営んでいました。
小さい頃から、ままごと遊びは「卵」を触ることでした。
365日生き物と暮らすため、家族で旅行することもなく、高校生の頃は、海外に暮らすことが夢だった茜さん。高校生の頃は、なかなかのおてんばっぷりに両親は不安の余り、海外へ出ることは反対されました。
仕方なく、当時、ファッションに関心があった茜さんは、家政科のある短大へ進学したもの、夢を諦めることができません。
ファッションからお菓子の世界へにシフトチェンジのきっかけは、青梅市のパン屋でのバイト経験。そこで、お金を貯め、両親の許可を得て、製菓専門学校へ入学し、パティシエロードを走り始めました。
在学中、「自分で店を持ちたい」という野心がメラメラと湧いてきます。
茜さん、なんと、夏休み中、軽井沢の貸別荘を借り、そこでお菓子を作り、ワゴンで販売をするという大冒険を実施。
すぐに、町役場から注意され、露天禁止のエリアだったらしく、あえなく茜さんの冒険は挫折。
しかし、捨てる神ばかりではありませんでした。軽井沢の「芦屋亭」のマダムから声がかかりました。

茜さんは、そこでアルバイトしながら、お菓子を卸し販売をさせてもらうチャンスを手にしたのでした。
専門学校卒業後は、都内のホテルに入社。本格的にペストリーの修行が始まりました。
その頃、ご主人と知り合い、結婚。ご主人は小池小学校出身、チャキチャキの
洗足池っ子。茜さんも迷わずこの地で結婚生活をスタート。2人の子供にも恵まれました。
主婦をしながらも、お菓子屋への夢はフツフツと燃え続け、料理家のアイスタントや時間の許す範囲でレストランでもアルバイトを続けていました。
そんなある日、洗足池商店街を歩いていると、2階を改装している工事現場に遭遇。
365日生き物と暮らした小さい頃からの経験で、「動物的直感」に優れた茜さん、ピンときました。工事現場の監督に聞きました。
「ここ、何になるんですか?」
「前は店だったけど、ワンルームマンションになるんだよ。早く家主に言わないと、ユニットバス設置してしまうよ」
茜さん、その場でご主人に電話。あれよあれよという間に、2007年29歳の茜さん、「パティスリーAKAME」をオープン。
始めは、たった一人でお菓子を作り、接客もしていた茜さんにも、仕事のパートナーが少しづつ増えていきました。
「ならば、もっと広いところで、いっぱいお菓子を作って、みんなで売りたいって思うようになりました」

2012年、500メートルしか離れていない、現在の場所に移転したのでした。
茜さんほどの力量があれば、もっと都心に進出する気持ちはなかったのでしょうか?
茜さんは、この街でお菓子屋を始めたときから、「仕事」と「家庭」の両方を大切に守ってきました。
そのため、自宅に近い場所で「育児」も「お菓子作りも」をきちんと続けていきたいと思い、この洗足池を離れることは考えられなかったそうです。
AKANEの店内やパンフレットには、素材の良さやこだわりについて書いてあるものがありません。国産の素材を使っていることをなぜ、セールスポイントにしないのでしょうか?
「お菓子が美味しいことは当たり前のこと。いい素材を使うことも当たり前のこと」
「素材の良さを売りにしたくない。それより、食べてもらって、胸がキュンとなり、
 お菓子を囲んで楽しくなる、落ち込んでいる時に、寄り添えるようなお菓子を作りたいんですよ」
あっぱれだ!
昨今、食材へのこだわりを謳い、どこそこの卵、最高級のバターを使っていますことが売りにしている店も少なくありません。
茜さんは、味に自信があり、信念があるから「食べたらわかるお菓子」に真っ向から勝負に出たのだと感じました。それ以上の能書きは必要ありません。
茜さんの次の野望は?意外や意外・・・・
「多店舗展開なんてとんでもない。子育てが終わったら、田舎に住んで、畑して
ワイン仕込みも夢なんですよ。食品と農業に関わる仕事をしてみたいですね」
AKANEファンの皆さん、ご安心を。下の娘さんは小学2年生。まだまだ茜さんは洗足池商店街で美味しいお菓子を作り続けます。
取材をしながら、都心から離れた洗足池商店街に、こんなイカしたお菓子店があることに
誇りすら感じました。これを読んだ若い女性たち、きっと勇気をもらえますね。
商店街の次の世代を牽引されるのは、もしかしたら、茜さんではないかと
期待を込めてペンを置きたいと思います。

取材・文 タカコナカムラ