27年現在進行形 「ing」

東急池上線の洗足池駅は、駅のホームから洗足池が望め、改札を出てガードを潜ると洗足池商店街があります。2年前にリニュアルしたウッドタイプの街灯が灯る時間が最も商店街が風情溢れる時間かも知れません。
商店街のほぼ真ん中にあるのが小さなブティック「ing」です。
「1996年にオープンしたので、今年で27年になります」と店主の石原真理子さんが想い出のページをめくるように語ってくださいました。
お店の1ページを描くのは、ご主人の博之さんでした。大手のアパレル会社でバイヤーとして腕を振るい、商品の買い付けやメーカーへの発注、展示会の企画と企業戦士として戦っていました。
「夫の会社の先輩が、この店をやっていたのです。支店もあり、この店舗は自宅が遠いから閉めたいということで、主人に声がかかったんです」
博之さんは、ファッション業界で得た知識やノウハウを活かせる自分の店を持ちたいとう夢があり先輩の店を引き継ぐ決意をしました。
当時、真理子さんは子育てをし、フィットネスクラブに通うようなごく普通の専業主婦だったそうです。
「私の母がちょうど、60歳で幼稚園の勤務を定年退職。次の人生はこれまでと違うことをしてほしい。この店の店長として働いてくれたらいいなあって思って声かけたんです」
娘さんの期待はわずか半月で消滅。
定年まで事務職だけをしてきたお母様、「接客業は無理!と言われ、そこから専業主婦だった真理子さんが店に立つことになりました。

真理子さんは、小さい頃から、洋服を選んだり、組み合わせを考えることが大好きな女の子でした。突然にして、ingの店長に就任。
店を持つことが夢だった博之さんは、ingでの役割は?
サラリーマン時代は、百貨店や専門店など大手の会社との取引が中心。小売店との商いをすることがありませんでした。
96年オープンから、ずっと博之さんは裏方として店を支えて来ました。
「開店した時は、息子は小学2年生。あまりに忙しくて、その頃の記憶は全く思い出せないんですよ。母たちには随分、子育ても助けてもらいました」
「息子の希望で犬を迎え、その犬は店のマスコット犬にもなってくれました」
博之さんが退職したのは、息子さん小学5年生で、その頃から、やっと落ち着いて店を運営することができるようになったそうです。
真理子さんの自宅は、洗足池エリアではなく、多摩川を渡った向こう側。電車とバスを乗り継いでの通勤。記憶が飛んでしまう程、多忙だったこと、わかる気がします。
「当時は、夜7時まで営業してました。この辺りには、学研を始め、会社も多くあり、お勤め帰りの方もよく立ち寄ってくださいました」
「開店当初は、スーツが売れ筋でしたね」
「お勤めの人はスーツを着るのがあたりまえという時代でしたからね」
その後、店のコンセプトは、お母様と娘さんが一緒に買えることが基本でした。
「当時、O Lだった方が歳を重ねてもおしゃれできる店にしたいと思っています。」
「今でも、遠くからわざわざ訪ねて来られる方も少なくないんですよ。嬉しいですね」
「27年間で、ホントに、店のおかげで沢山の友だちができました。それが一番の財産かも知れないですね」
確かに、お話を伺っていると、洋服を買う目的でなくても、真理子さんの穏やかな接客に癒されたくなるのかも知れません。

昔からのご近所の常連さんも多く、
「同じ服を着ている人とすれ違いたくない。できるだけ
1点ものとしたり、色を変えたりして、同じアイテムを大量に仕入れることは避けています」
商品を手に取ると、流行を取り入れ、かつ、歳を重ねたベテランの女性にも似合うラインナップです。細い方にも、ちょっぴり大きなサイズも豊富です。
店内のショーケースに並ぶアクセサリーも目をひきます。ひとりのジュエリーアーティストの作品で、全て手作り1品もの。個性的なデザインの中に飽きのこないものを見つけることができます。
コロナ禍では、外出する機会が減り、洋服の売上も下降気味。
「家族で運営しているから、なんとか継続することができました。家族で守ってきた店を少しでも長く続けたいですね」
真理子さんにも次なる夢や目標を伺っても、「うふふ・・・」と自然体。
店名の「ing」は、〜しているという現在進行形の英語。
「誰もが知っている英語で、覚えやすく、私たちもいつも、進行形でいたいねって思いで
店名にしたんですよ」

小売店で洋服を買うことに抵抗を感じる人があるかも知れませんが、その人の年齢や体型に合わせて選ぶプロの技は確実に自己流選びとは違います。
1枚のカーデガンから組み合わせ方や着こなし術までプロが丁寧に教えてくれます。
自分が似合わないと思っていた色も、案外、ラッキーカラーかも知れません。

洗足池商店街の近くの方は、歳を重ねても、装いに素敵な方が多いそうです。
ベビーカーを押すママたちもおしゃれな方が多いと真理子さん。
「ing」 の進行形も楽しみにしていたいです。


                         取材・文 タカコナカムラ