バイクを愛する夫婦の店 街の灯「井上書店」

井上書店は、昭和33年にこの地で開業、今年で65年になります。かつては、どの商店街にも本屋さんがあり、子供から老人までが利用するランドマークのような存在でした。
本がオンラインで購入する機会が増え、書籍も電子図書の時代となり、本屋さんの存在が
薄くなりつつある昨今。店主の井上祐一さんと妻の亜矢子さんにお話を伺いました。

機械発、バイク経由、本屋さん

「本屋をやり始めたのは、父親なんです」「オヤジは、特に本が好きというわけでもなかあった気がします。戦後、オヤジは古本を自転車に積んで売り歩いていたそうで、その延長で
本屋を始めたのだと思います」
「うちの親戚も本屋が多いんですよ〜」
2代目の祐一さんは、大学卒業後、本屋とは全くの鉄鋼関係の会社に就職。
機械いじりも好きで、この場所から通勤する日々が5年程続きました。
1989年、父親の後を継ぐために退職、趣味のバイクと本屋を並走している最中、
バイクショップで知り合ったのが妻の亜矢子さんでした。
なんと、亜矢子さんは、バイクで生計を立てたいと夢を持ってる程のバイク好き。
もちろん、中型免許取得者。かっこいい〜!
二人がすぐに意気投合したのは、わかりますよね?
祐一さんは、バイク乗りと言っても、ツーリングではなく、サーキットを走るレーサーでした。筑波サーキットや遠く、西仙台サーキットまで足を伸ばすほど。
1990年、人生という長いレースを共に歩む決意で結婚。
3人の男の子にも恵まれ、子供たちの成長と共に、本屋を営みつつ、サーキットを巡る二人三脚の幸せな時間が過ぎていきました。
2016年、レース中に追突され、大怪我を負った祐一さんは、救急車で運ばれるという
悲惨な事故に遭遇。祐一さんは、それ以来、サーキットを走ることはありません。
現在は、病院や美容院への配達には、125ccのスクーターにまたがっています。
時々、ふかして風を切って走る姿を見かけますよ。

本屋はコミニケーションの場

池上線沿線には、井上さんの親戚の本屋さんが数店舗ありました。残念ながら、
現在では、洗足池と久ヶ原、奥沢の3軒の本屋さんだけになってしまいました。
どの街にも本屋さんがあり、学校帰りに子供たちが集まり、駄菓子を置いている所もあったりして、街の憩いの場でした。
本屋を営み、楽しいことは何でしょうか?と尋ねると
「ピンポーンとしなくても、友達が気軽に店を訪ねてくれます」「子供を通じてのママ友や
近所の方との何気ない会話、それがすっごく楽しいですね」
「夫は、この街で生まれ育ったから、同級生が何十年かぶりに訪ねてきたり、
近くまで来たからとふらっと立ち寄ってくれる友人がいるんですよ」と足立区出身の亜矢子さんは、少し羨ましそうに話してくれました。
そうです、用がなくても気軽に、「フラッと立ち寄れるのが本屋さん」取材中に常連のお客様にお話を聞くと、「この辺りもすっかり本屋がなくなり、不自由している。Amazonなんかで買わないよ。ここは、欲しい本が揃っているからね」「好きな本も、すぐ取り寄せてくれるしね。」
この日も3冊の本を購入、嬉しそうに店を後にされました。
井上書店のお休みは月に1回。平日は、朝11時から夜の11時まで営業されています。
「この商店街も、店が少なくなり、寂しくなった。」「真っ暗になるから、うち位、電気を付けておかなくてはね、って思うんですよ」

商店街を照らす番人

井上書店は、洗足池商店街の「灯(あかり)」だと思いました。仕事帰りに井上書店の灯りを見るとよし、明日も頑張ろうと元気をもらえます。
喧嘩をして家を飛び出た息子を井上書店に迎えに行った思い出や、どうしても読みたい
記事を求めて自転車で走り、手が凍りそうになった夜のこと・・・・
井上ご夫妻は、交代で店番をするために、夫婦での食事は盆とお正月の三元日のみ。
アニメから週刊誌、月刊誌、宝もの箱のように、書店の奥に進むとあなたの好きな1冊が
きっと見つかります。
もしかすると、本の購入以上に、目的は、お二人との会話を楽しみたくお客様の足が自然に井上書店に入っていくのではないかと感じました。
街の本屋さん、大好き、ずっと続けて欲しいと思いました。

                  取材・文 タカコナカムラ

井上書店

〒145-0064 東京都大田区上池台2丁目31−10
03-3720-5705
営業時間 平日11:00〜23:00 土日祝日は、20時頃閉店。
定休日 月1回不定
    GW・お盆・年始休業あり